ボーヴォワール『老い』

62歳のシモーヌ・ド・ボーヴォワールが1970年に発表した『老い(La Vieillesse)』は、若さがもてはやされていた当時の社会状況を踏まえて、あえて老いに関する問題を告発した作品です。冒頭でボーヴォワールは、ほとんどの人々は老いに対して沈黙し、社会のタブーとさえ捉えられていると述べています。

社会にとって、老いというものは、それについて語ることさえ不謹慎な恥ずべき秘密だと捉えられている。(La Vieillesse, 542-3)

翻訳本が発売当時の本書は、写真のように上下巻・二段組み・合計1000頁を超える大著です。

その文章量に圧倒されますが、第一部 「第三章 歴史社会における老い」で、丹念に紹介された古今東西の老いに関する膨大な歴史的記録の蒐集を拾い読みすることだけでも、人類における老いの歴史の蓄積を読み取ることができます。ゴヤ、ゲーテ、シャトーブリヤン、画家や作家たちは老いをどんな風に捉えていたのか? その作品やエッセイから読み取れる、それぞれの老いへの考え方や距離感も興味深いものです。

「第四章 現代社会における老い」では、1970年当時の情報になりますが、フランスを中心にしたヨーロッパ各国での老人ホームや老人の暮らしぶりについて紹介されており、ヨーロッパにおける救済院の歴史や老人ホームの変遷を知ることもできます。当時から「老人たちにとって彼らの間だけで暮らすのはいいことかどうか」という議論がなされており、高く評価されていたのは、都市の中心にある独立した小部屋の集まりのある老人ホームでした。老人ホームが、都市部に位置していることで、成人した子供たちの身近にいることができるからです。

「しかしさらに、あらゆる年齢の者が住む集団住宅の中に、独立してはいるが、いくつか他の年齢の者と共通の施設(食堂、その他)を含む老人住宅=ホームをつくることが、いっそう望ましいであろう」とボーヴォワールは述べています。本書発表から50年以上経った現代ですが、ボーヴォワールが述べたような住まい方は、まだまだ実現されているとは言いがたいです。

どの章から読んでもさまざまな発見がある『老い』は、フランスを追い抜いて超高齢社会となった日本でこそ、再読される必要があるように思えます。

ちょうどいまE テレ「100分de名著」で、社会学者の上野千鶴子さんがガイド役となって、ボーヴォワールの『老い』を紹介しているので、こちらの番組もオススメです。

100分de名著 『老い』 https://www.nhk.or.jp/meicho/famousbook/111_beauvoir/index.html

『老い』(La Vieillesse)新装版上下巻

著 者:シモーヌ・ド・ボーヴォワール
翻 訳:朝吹三吉
出版社:人文書院
発行年:1970年

目 次:序
はじめに
第一部 外部からの視点
第一章 生物学から見た老い
第二章 未開社会における老い
第三章 歴史社会における老い
第四章 現代社会における老い

第二部 世界=内=存在
第五章 老いの発見と受容—身体の経験—
第六章 時間、活動、歴史
第七章 老いと日常生活
第八章 いくつかの老年の例

結論

付録 Ⅰ 百歳長寿者
Ⅱ R・E・バーガー『老人の世話をするのは誰か?』
Ⅲ 社会主義諸国における退職労働者の状況
Ⅳ 老齢者の性生活に関するいくつかの統計的資料

あとがき
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