YellowKorner(イエローコーナー)の意識調査に見るホスピタルアートの効果

ケアリングデザインは、設立以来”Good Over 50’s’と共に、美しく心豊かに過ごすための病院や福祉施設の空間づくり—”Design for Care”を提唱してきました。ホスピタルアートは、その”Design for Care”の実践のひとつであり、注目しているテーマでもあります。

※ホスピタルアート:医療福祉施設で,ボランティア患者職員などが絵画や音楽などの創作展示発表などを行う活動。また,その芸術。施設内を心地よい空間にすることによって,患者の精神的ケアを図るもの(三省堂「スーパー大辞林3.0」による)。

まだ一般的とはいえませんが、日本でも本格的にホスピタルアートを取り入れようと考える医療機関が徐々に増えつつあるようです。

●YellowKornerによる「アート写真がもたらす効果」アンケート結果

今回ご紹介するのは、アート写真の販売やアート写真のある空間提案を行うYellowKornerが、北海道にある医療法人渓仁会 手稲渓仁会病院の入院患者様とスタッフに実施した、アート写真の導入と作品に関する意識調査結果です。

病院での展示風景

ホスピタルアートを導入した病院で、患者様やその家族、病院スタッフにもアンケートを実施した貴重なデータです。YellowKorner様の許諾を得て、その結果の一部をここでご紹介してみます。

アンケート結果は、Webで一般公開されていますので、以下のリンクからご覧ください。

YellowKorner
アンケート【アート写真がもたらす効果】-病院におけるアート写真に対する意識調査-を公開

実施時期:2019年
実施場所:医療法人渓仁会 手稲渓仁会病院
サンプル数:患者181名、病院スタッフ1,290名
展示場所:病院内1階カフェ、3階渡り廊下数カ所

●「アート写真が飾られている病院は良いと思う」患者さんは99%

YellowKornerがアンケートを実施した患者さん(およびその家族や見舞客も含む)181名の内訳は、女性60%、60歳代以上が46%。

「アート写真が飾られている病院は良いと思う」と回答した患者さんは、99%。「足を止めてアート写真を見た」のは78%。病院という場にアート写真が飾られていることを好ましく思う患者さんがほとんどであることがわかります。

アート写真を見て感じた気持ちの変化は、以下が上位3位でした。

1位 癒やされる(29%)
2位 空間が豊かになる(22%)
3位 気分が明るくなる(16%)

「病院らしさが薄れ、気持ちが明るくなる」「リハビリに行く時、絵をみていると心がおだやかになった」「ハッとさせられました。心が落ち着き、ひととき病気を忘れ前向きになることが出来ました」という感想からも、患者さんやその家族への心理的な癒やしとして心に大きな影響を与えていることがわかります。

「季節ごとに作品を替えた方が良い」と考える人は92%。入院している患者さんには、季節の移り変わりをアート写真によって感じたい気持ちがあるのかもしれません。

どんな色の写真が病院に合うかという質問には、「パステル(55%)」「カラフル(37%)」と、患者さんは明るい色彩を好む傾向にあるようです。

また、どんな写真がいいかという質問では、「風景(40%)」「動物(28%)」「花(24%)」の順に好まれています。

アート写真の作品例

●アート写真が飾られていることで、病院スタッフもまた癒やされる

アンケートを実施した病院スタッフ1,290名の内訳は、看護師が全体の51%を占め、20代が42%、女性が78%という比率です。

「アート写真が飾られている病院は良いと思う」と回答したスタッフは97%。「季節ごとに作品を変えた方が良いと思う」人は91%、と、スタッフもアート写真への関心が高いということがわかりました。

アート写真を見て感じた気持ちの変化は、患者さんと同じ項目が上位3位でした。

1位 癒やされる(33%)
2位 空間が豊かになる(28%)
3位 気分が明るくなる(12%)

病院スタッフによる「アート写真掲示での体験評価」は、5点満点で「3点(42%)」「4点(36%)」「5点(14%)」と概ね好評価でした。

その理由として、アート写真があることで「患者さんとの会話のきっかけとなる」「視覚的な刺激があることで、患者さんの療養生活にメリハリがつくと思った」など、患者さんとのコミュニケーションに役立つという意見のほか、スタッフ自身も「リラックスできる」「ふと気づいた時に心豊かにさせてくれる」という心理的効果が挙げられています。

●パブリックアートとしての役割をも担うホスピタルアートの今後

ケアリングデザインが2018年に訪問したノルウェーのヘルケアセンター「ウルル・ヘルスビッグ」では、「日常生活の中にある芸術作品は、住民だけでなく、訪問者、そこで働く人々、すべての人のためにあるものだ」という考えのもとに、アート予算を充てて、地元アーティストの作品が選定されていました。つまりホスピタルアートは、広い意味でパブリックアートとしての役割をも担っているのです。

ホスピタルアートが日本でも一般的になり、ケアの現場にアート作品が本格導入されていくためには、今回のような実証データが、説得材料として重要となっていくに違いありません。

今後は、これら研究も踏まえて、施主、建築家、アーティスト、キュレーターといった専門家と議論する場を考えていきたいものです。

 

▼いままでにケアリングデザインがご紹介した北欧のホスピタルアートの記事も、以下からご覧ください。

北欧ホスピタルアート①フィンランド「オンネランポルク」

北欧ホスピタルアート②ノルウェー「カンペン・オンソルグプラス」

北欧ホスピタルアート③ノルウェー「ウルル・ヘルスビッグ」

この記事をSNSでシェアする

関連記事

五感の変化①

編集部
わたしたちはまわりにあるいろいろな状況の中で、絶えず何かを感じ判断をして行動をしています。 建物や空...