ルース.K.ウェストハイマー『たいせつなかんけい』

ルース.K.ウェストハイマーは、米国の心理療法士。ラジオの人気セックス相談番組「Sexually Speaking」を担当したことから、米国ではセックス・セラピストのドクター・ルースとして、そしてホロコーストの生存者としても知られています。

最近では、90歳(撮影当時)の彼女のドキュメンタリー映画『おしえて!ドクター・ルース』が公開されたことで、日本でもよく知られるようになりました。映画の話はまた別のコラムで。

『たいせつなかんけい おじいさん、おばあさんと仲良くする9つの方法』は、1999年に日本で出版されたもの。ドクター・ルースが孫世代の子どもたちに向けて、おじいさん、おばあさんと仲良くする方法をアドバイスするという内容です。

子どもたちにわかりやすいシンプルな言葉で、おじいさん、おばあさんとの付き合い方を話すドクター・ルースの言葉は、愛にあふれていて、子どもだけでなく、Good Over 50’sと親世代の関係へのアドバイスと置き換えても、そのまま自然と心に染み込んできます。

—いい人間関係をつづけるのは、努力が必要です。
 愛情は、植物と同じ。たっぷりと日光にあて、水をあげれば、どんどん成長していきます。でもあなたがかまわなくなったとたん、死んでしまいます。
 この本では、みなさんといっしょに、おじいさん、おばあさんと孫のあいだに、愛情の木を育て、りっぱな花を咲かせる方法を、考えていきたいと思います。—

日本語翻訳版は1999年に出版されたものですが、本書の内容は少しも古びていません。

「第9章 おじいさん、おばあさんに、パソコンを教えてあげよう!」という章では、一段と仲良くなる手段として、パソコンの使い方や当時のパソコン通信を、おじいさん、おばあさんに教えてあげるアドバイスがあります。教え、教わることで、お互いの気持ちがしっかりと結びついてくるもの。なにより、人に教えることで自分の理解も深まるのだと、ドクター・ルースは言います。

好奇心が人をイキイキとさせることは、以前ご紹介したICTエバンジェリスト若宮正子さんの『老いてこそデジタルを。』という本でも書かれています。新しい刺激ほど、心を若々しく保ち続ける妙薬なのです。

でもドクター・ルースが教えてくれるのは、その先にある、心の結びつきです。おじいさん、おばあさんが孫にパソコンを教わることで、使うたびに孫の顔が思い浮かんでくる。孫も、おじいさん、おばあさんから教わった昔のことを思い出すたびに、ふたりの顔が思い浮かんでくる。教え、教わることは、「たいせつなかんけい」を育むための大切な心の交流なのです。

—パソコンのスイッチを入れるたびに、あなたの顔が頭に浮かんでくるのです。
 そういうあたたかな気持ちがじつは、生きていくうえで、なにより大切なものなのですね。—
(第9章 おじいさん、おばあさんに、パソコンを教えてあげよう! より)

挿絵は、長新太さん。「ルースさんは好き勝手をいって輝いているおばあさん」という魅力的な解説を書いているのは、五味太郎さん。

出版年の古い本ですが、ぜひネット書店、古書店、図書館などで探してみてください。

ちなみに2020年現在のドクター・ルースは、92歳。10万人近いフォロワーのいるTwitterを使いこなして、ごく最近では「Zoomでセックス・エデュケーション・クラスをやろうかしら?」なんてつぶやいて、ますます“輝いているおばあさん”になっています。

⇒Dr. Ruth Westheimer @AskDrRuth https://twitter.com/askdrruth

『たいせつなかんけい おじいさん、おばあさんと仲良くする9つの方法』

Dr. Ruth Talks About Grandparents
advice for kids on making the most of a special relationship.  (Farrar, Straus & Giroux, 1997.)
ルース.K.ウェストハイマー/著 岡田好惠/訳 長新太/絵
出版社名:講談社
出版年月:1999年7月
ISBNコード:978-4-06-209769-7(4-06-209769-9)
価格:1,430円(税込)

目次
第1章 おじいさん、おばあさんの歴史
第2章 おじいさん、おばあさんって、どんな存在?
第3章 おじいさん、おばあさんが、近くに住んでいる場合
第4章 おじいさん、おばあさんが、遠くに住んでいる場合
第5章 代理のおじいさん、おばあさんを見つける方法
第6章 両親の離婚とおじいさん、おばあさん
第7章 高齢のおじいさん、おばあさんと仲良くするには
第8章 おじいさん、おばあさんが亡くなるとき
第9章 おじいさん、おばあさんに、パソコンを教えてあげよう!

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