展覧会レポート「マギーズセンターの建築と庭―本来の自分を取り戻す居場所―」

マギーズセンターは、がん患者さんやそのご家族などの、がんに影響を受けるすべての人たちが、予約なしに、いつでも無料で相談することができる場所です。

英国の造園家で建築家でもあったマギー・K・ジェンクスさんが、がん患者ではなくひとりの人間として「自分を取り戻せるための空間やサポートを」と願い、英国で開設しました。現在、英国内外で約20ヶ所以上のセンターが運営されています。日本にもマギーズ東京があり、すべてのマギーズセンターは、企業や個人からの寄付のみによって運営されています。

マギーズセンター(https://www.maggies.org/)
マギーズ東京(https://maggiestokyo.org/)

GALLERY A4(ギャラリー エー クワッド)で現在開催中の展覧会「マギーズセンターの建築と庭―本来の自分を取り戻す居場所―」を、ケアリングデザインのメンバーで拝見してきました。

新型コロナウイルス対策として、HPの予約フォームからの事前予約制、各回定員7名の展示受付のため、会場内で人が密になることもなく、安心してゆっくりと観覧できます。

会場入口。マギーズのテーマカラーであるオレンジ色には、人の心を元気にさせる効果があるようです。

展示会場の構成監修は、マギーズ東京の建築監修に関わった建築家の阿部勤先生。会場内に再現された庭園は、JAG(ジャパンガーデンデザイナーズ協会)+ NPO法人Green Worksによるものです。阿部勤先生には、ケアリングデザインの活動にもご協力いただいています。

会場では、マギーズウエストロンドンの建物の一部と、玄関に続く曲がりくねった庭の一部が再現されています。マギーズウエストロンドンの建築設計は、リチャード・ロジャース(Rogers Stirk Harbour+Partners)。庭園設計は、六本木ヒルズや十勝千年の森などを手がけた造園家ダン・ピアソンです。

会場に再現された、草木の間を縫うような緑のアプローチ。

街中の病院に隣接したマギーズウエストロンドンの玄関までの曲がりくねった小径は、訪れる人のために病院との距離感をつくりだし、街にありながら自然の中にいるかのような気分にさせるために設計されています。本物の木々や草花を使って会場に再現された小径で、東京にいながらにして、そのコンセプトの一端を感じることができました。

また、会場内にはマギーズセンターの象徴である大きなキッチンテーブルが置かれています。これはマギーズ東京で使っているのものと同じ一枚板の天板を使ったもの。

会場に再現されたオープンなキッチンテーブル。一枚板のフォルムが美しい。

マギーズセンターでは、こうしてみんなで大テーブルを囲むオープンなスペースの他に、一人で静かに過ごせるコージーな空間も用意されています。訪れた人は、自分の好きな場所で過ごすことができるのです。

阿部勤先生は、マギーズセンターの建築は、自然という外界から壁をつくって“囲う”欧米スタイルでありながら、自然に開かれながらも覆い守られている、”安心できる巣”のような建築で、日本やアジアのスタイルを感じさせると言います。また、その魅力のひとつは“見え隠れする空間”だと指摘します。
「古来、牙もない人間は敵を認知して隠れて生き延びてきました。だから、見え隠れできる空間にいると落ち着くのです。マギーズ東京には、全体を見渡せる大きなオープンキッチンがあれば、開放的な居間と障子で仕切られたひとりになれる小さな個室もあります。個室といってもすっかり閉じている訳ではなく、なんとなく人の気配を感じ、外の自然を見ることができます。人は、こうした見え隠れできる空間を心地良いと感じるのです。建築は、心の言葉です。マギーズセンターのような建築と庭園空間は、そこを訪れる人の心に語りかけて、本来の自分を取り戻せる場所になるのです」。

創設者マギーさんの夫、マギーズ共同創設者であり建築評論家でもあるチャールズ・アレクサンダー・ジェンクス氏が、「建物の持つ力が、がんと診断されショックで泣いていた患者を、自分の置かれている状況をきちんと見つめられる人間へと徐々に変えていくのである」(『マギーズの“希望をもたらす建築”』より)というように、建築空間には、人の心を変える力があります。

「予約なく行ける、病院と家の中間にある“第2の我が家”であり、第3の居場所」(『マギーズセンターの建築と庭—本来の自分を取り戻す居場所—』より)としてのマギーズセンターは、英国を中心に、いま世界に広がっています。

マギーズセンターには「空間はオープンである」「一人で泣ける広めのトイレがある」など、いくつかの独自の建築要件が定められており、この要件が満たされていれば、それ以外の点については建築のデザインは自由です。フランク・ゲーリー、ノーマン・フォスター、ザッハ・ハディットなどの著名な建築家が設計、マギーズセンターに欠かせない庭園の設計には、ダン・ピアソン、アラベラ・レノックス・ボイド、ピィト・アゥドルフなどの造園家が関わっています。

これら、世界のマギーズセンターの建築と庭園の様子は、会場のパネル展示と映像作品で見ることができます。

展覧会パンフレット(写真左)は、会場で購入可能です。『マギーズの“希望をもたらす建築”』(写真右)は、マギーズ東京のホームページより購入できます。

会場内の展示映像を見ていると、細部まで考えられたマギーズセンターの空間の持つ力が、ここを第3の居場所として訪れる人だけでなく、そこで働く人々にとっても、安らぎを与える空間となっていることがわかります。

また近隣の人々にとっても、マギーズセンターのデザイン性の高い建築物が、がんや地域コミュニティのあり方について考えるきっかけとなっていると言います。建築の力は、まわりの人々の意識にも働きかけています。

GALLERY A4(ギャラリー エー クワッド)での展覧会は、6月25日まで(土・日休館)。
GALLERY Aのホームページでは、英国マギーズセンターのローラ・リーさん、マギーズ東京センター長/共同代表理事を務める秋山正子さんからの動画メッセージも公開されています。

少しでも多くの方々に見ていただきたい内容です。

完全予約制となっておりますので、以下公式ホームページから事前予約してください。
※6月19日(金)から1日の予約枠が増設されました。詳細は公式ホームページで。

GALLERY A4 公式ホームページ

※ポスター画像提供:GALLERY A4  

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