ル・コルビジェの『小さな家』

新型コロナによる外出自粛期間中は、お気に入りの本の表紙だけを7日間連続で投稿する「Book Challenge(ブック・チャレンジ)」が、SNSで人気でした。知らなかった本、久しぶりに出会った本、愛着のある本…、「Book Challenge」は、ブックガイドのような役割を果たしてくれました。

そんな中で出会った本が、ル・コルビジェの『小さな家』です。

1923年、ル・コルビジェが年老いた両親のためにレマン湖のほとりに建築した小さな「Villa Le Lac(湖の家)」。この家に引っ越した1年後に彼の父親は亡くなり、母親が1人で暮らしていたことから「母の家」とも呼ばれています。

“この小さな家は、長年にわたって働き続けた私の両親の老後の安らぎの日日を想定したものである”と、本書でコルビジェが語るように、レマン湖のすぐそばに建てられた「小さな家」は、自然をこよなく愛する父親のために、コルビジェが入念に計画して、この敷地を見つけたのでした。

平屋建て、長さ16m、幅4m、総面積64㎡という、コンパクトな家は、老夫婦だけで暮らすことを想定されたミニマルで使いやすい設計となっています。

コルビジェがこの家の計画で重要と考えたのは、太陽が南にあること、そして最小限の実用性が得られる“住む機械(Une machine à habiter)”であることでした。

廊下がなく、食堂兼サロン、寝室、バスルーム、ゲストルームが仕切りだけで回遊式につながっている室内は、安全で機能的。湖に面した一面の窓のつながりは、どの部屋にも太陽の光をさんさんと取り込みます。老後の暮らしにこんな家があったなら、さぞ楽しいことでしょう。

本書は、写真はモノクロ、スケッチはカラーという絵本のような体裁で「小さな家」への想像が膨らみます。
2016年に世界文化遺産に登録された「小さな家」は、現在公式サイトVilla Le Lacの動画や写真で、その詳細を見ることができます。

2018年にケアリングデザインが開催した「くらしのデザイン展2018 いまどき、方丈」でも、鴨長明の『方丈記』で綴られている方丈(畳四畳半)のような小さな空間に住むことで得られる、心豊かな暮らし方をご提案しました。

ル・コルビジェの『小さな家』は、これからの「小さく暮らす」住まいを考える上でとても大切な本です。

 

⇒ル・コルビジェ著、守田一敏訳『小さな家』(1980年、集文社)

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