フィンランドの高齢者ケア1:ハイテクを駆使して(後編)

フィンランドの高齢者ケア 1(前編)からの続きです。前編はこちら

コウクニエミ高齢者コミュニティーは身体機能が低下して、日常生活が独立してできなくなった高齢者を対象にした高齢者ケア施設として1886年に開設された。リハビリテーション施設と整形外科の患者(主に股関節骨折)病棟を含む6つの短期及び長期滞在ホームから成っている。元々タンペレ市は2つの大きな湖に囲まれた市であるが、コウクニエミ高齢者コミュニティーは2つのうちの大きな湖に面した、広大な敷地面積に今では800人程の高齢者が集う、北欧、ヨーロッパで一番大きな高齢者ケアコミュニティーである。短期滞在ホームでは介護をする家族に支障ができた場合に高齢者を収容できるサービスも含まれている。むろん、介護疲れによる介護人のバーンアウトも対象になり、介護人に休養をサービスすることも含まれている。リハビリテーション施設にはこのコミュニティー以外の外部からも高齢者がアクセスできるように成っている。3ヶ月以上の長期滞在ホームにはこのコミュニティーの中心になっていたコウクニエミ病院を中心に必要な医療検査センター、医者のコンサルテーションなどの総合医療診断、専門医サービス、歯科病院も含まれる。また、このコミュニティーに属する高齢者、施設で働く職員に配食、給仕する給食施設棟、喫茶店、図書館、施設に必要な家具を収納、修繕する部署、アクティビティなどを行う施設、集会や行事に対応した音響効果の付属した宴会施設をふくむ大会議室なども整備されている。そしてこのコミュニティーのユニークさの一つは、それらすべての建物が地下にある延長2km にもおよぶトンネルによって連結していることである。まさに、寒くて、長い白夜期間中にも外に出ること無く、滞在する高齢者や職員が行き来できるようになっているのである。

フィンランドでは老人ホームが質の高い住空間と安心、安全の備わった賃貸型の高齢者住宅サービスハウスに転換されつつある。入居者は家賃、食費、ケアなどの各種サービス費用を支払う。国の高齢者医療サービスの方向性転換に伴い、タンペレ市はこのコミュニティーを高齢者居住区として、収容の場としての高齢者福祉施設から、オープンケア(地域ケア)という概念に基づいた生活の場としてのコミュニティーに移行させようとしている。その中にあり、2014年1月に4階建ての長期滞在24時間ケアシェルターハウス、ユーコラ、インピバラの2棟が新たに建設された。この施設のユニ ークな点は2階から4階まではタンペレ市に所属し、1階は非営利NPOが運営していることであり、これも自治体主体の高齢者ケアに国の社会、健康福祉サービスをとりいれ、国の経済的負担を増加しようとする新しい観点の導入モデルと成っている。ユーコラ棟では各階に14の1人用居室と1つの2人居室がある。54平方メートルの居室にはシャワーとビデ付きトイレ、洗面台、ベッドと服などの収納キャビネットが基本として装備され、後の入居者がそれぞれにその好みに応じてテレビ、ラジオ、コーヒーテーブル、リクライニングチェア、飾りダンスなど自由に持ち込めるようになっている。できるだけ自分の家としての感覚を残した居室にするというのが、生活の場としての高齢者福祉士施設のガイダンスなのである。コモンスペース(共同空間)として、各階には3度の食事やコーヒータイムをすごせる食堂、100インチの大スクリーンモニターTVとソフア、リクライニングチェア、コーヒーテーブルを備えたリビング、エクササイズエリア、ランドリールーム、そしサウナが付随している。さらに、入居者の毎日摂っている薬の保管部屋と介護職員、看護師のナースステーション。

入居者の平均年齢はおよそ84歳。施設入居基準が独立して日常生活を自宅で持続できなくなったことにあるので、ベッドでの寝たきりの入居者もいるが、おおむねは車椅子やワーカーで食堂まで、食事に来られる身体機能が低下している高齢者である。そして、70%以上が程度の違いがあるが、認知症、アルツハイマー症、パーキンソン症などの知能低下を伴っている。

ユーカラ棟では入居者全員がケアウオッチを常時利き腕の反対腕にはめている。入居者の居室のベッド枕元に設置されたベースステーションと一体のケアスタッフとのコミュニュケーションシステムであり、高齢者が現在地を知らせるモニターシステム、非常時のアラームシステムであり、さらに、ウェルビーングシステムとして、心拍数の変化や日常の身体機能、睡眠状態などが常時モニターされて、そのデーターはワイアレスで即時にナースステーションのコンピューターワークステーションにトランスファーされている。

ケアウィッチ

ケアウォッチ

ケアウォッチ

 

fin01_05.jpg

ベースステーション

 

fin01_06.jpg

モニタースクリーンをチェックするケアスタッフ

 

fin01_07.jpg

例えば、ケアスタッフにリクエストしたい時には、ケアウオッチのボタンを押すと、担当ケアスタッフの携帯電話スクリーンに誰が、どこで、いつリクエストしているかが表示される。それを確認したスタッフが短時間で対応できるようになっている。また、ベッド枕元のベースステーションを通じて会話も可能である。心拍数などの身体機能モニターリングによって、ベッドに横になっているのか、歩いているのかなども知ることができ、睡眠の深さをモニターする機能も搭載されているので、睡眠パターン、時間、睡眠度の浅さ、深さなども常時モニターされてデーターベースに記録されるシステムと成っている。このサーカディアンリズム(概日リズム)ソフトによって、また同時にワークステーションデーターに記録される食事、投薬記録とともに入居者の体調がモニターされる。1日を3つの時間帯シフトに分けられるケアスタッフ間の情報伝達の手段になり、細かいケアが可能になるようになっている。

fin01_08.jpg

ワークステーション

 

fin01_09.jpg

日々蓄積されているデータ

 

ユーコラ棟では居室とシャワールームのライトは自然消灯型で、スイッチ操作以外でも消灯する。室内温度、湿度は一定に設定されており、防音装置の施されている建物全体は常時静かである。

この記事をSNSでシェアする

関連記事

新緑の季節です

横井 郁子
目がしょぼしょぼ。 パソコンを見つめすぎました。 眼精疲労のつぼをプッシュしてみました。 ……今ひと...