フィンランドの高齢者ケア1:ハイテクを駆使して(前編)

先進的な福祉国家フィンランドからシニアライフの今をレポートします。健康なシニアライフを探索中!第一弾はデジタルテクノロジーを利用した要介護高齢者、 認知症高齢者を中心にした施設ケア付きサービスハウスの試みをレポートします。

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確実に高齢化の進む先進諸国。その中でフィンランドはEU連合国の中で、最も急速に高齢者人口の割合が増加している。2050年には総人口の4分の1が65歳以上の高齢者に到達すると予想されている(1, OECD Stat, 2012)。EU連合国の65歳以上人口の増加が平均22%に対して、41%と倍近く、群を抜いている。社会福祉、健康福祉制度が整っているとされる北欧国家にあり、実際に公的医療に対する市民満足度が高いフィンランドではあるが(2)、高齢化の及ぼす財政的圧迫はその保健ケアサービスを根本から揺さぶり始めている。

北欧の社会保障は、国が年金、給付などの所得保障政策、地方自治体が社会福祉、保健ケアサービスを供給という役割分担をしている。フィンランドではその社会福祉、保健費用は地方自治体の歳出の51%(3)を占める(The Primary Health Care Act 66, 1972; The Status and Right of Social Welfare Clients 812, 2000)。2001年に社会保健省と地方行政協会の公布した“フィンランドの高齢者に対する高品質の介護活動に関する国家的枠組み”では、高齢者ケアでは人間の尊厳、公平と平等、個別性、自己決定の権利などが尊重されている。高齢者ケアは福祉補助法による困窮者ではなく、社会サービスの顧客として、オープンケア(地域ケア)の充実が目標とされる。

フィンランド全体で336に分割される地方自治体(2013年)であるが、首都ヘルシンキ市を中心とした南部地帯の都市に人口が集中し、地域的格差が進行しており、人口に対しての税収入の少ない自治体の財政負担を頻拍している。そして、この社会保険費に占める高齢者ケア支出の増加は高齢者ケアサービスを施設ケアから在宅ケアへと転換させている。それに付随して、自治体同士の連合、コストダウンを計っての民間サービスの購入、長期高齢者ケアに対する国の社会、健康福祉費の見直しなど、自治体とサービスの構造改革が進行中だ。

伝統的に核家族のフィンランドでは高齢化しても子供に頼るという意識は低く、75歳以上の高齢者の9割は自宅で独立して生活している。それでも、確実に肉体的な認知的な機能低下が進むが、その場合には自治体の提供するホームケアサービスや生活支援サービスを利用することができることになっている。このサービスにはソーシャルワーカーや保健医療スタッフの訪問看護サービス、ショッピングやシャワーなどの介護サービス、住居清掃など生活関連サービスなど多種の個々のニーズに応じた生活支援、またミールサービス(基本的に3度の食事の配達)、タクシーなどを含む交通移動補助サービスも含まれる。しかし、実際にはそのサービスを利用している人がひどく少ないのに驚く。統計的に1割ぐらいの高齢者しかそのサービスを享受していないのである。また、自治体では家族を始めとするいわゆるインフォーマル介護者に金銭手当を支給するシステムを施行しているが、たった4%の高齢者家族しか、利用していない。各国に比較すると高い税金を長年強制的に払ってきたというのに。これも個人の独立性を尊ぶフィンランド人の精神性の現れなのであろうか?

さらに、身体的及び認知的な機能低下が進行して、一人では日常生活が困難になると、施設サービスに移行する。これには24時間介護付きのシェルターハウス(施設サービスを利用する高齢者の10%)、老人ホーム(施設サービスを利用する高齢者の4%)、健康センター(フィンランドでは国民すべてがいずれかの自治体の健康センターに登録されている。健康センターにはリハビリテーションのほか、医療、入院施設も付随していて、プライムケアをおこない、さらに高度な医療治療が必要な場合には健康センターを通じて、高度専門医療機関に紹介されるシステムになっている)の長期療養病棟(施設サービスを利用する高齢者の2%)がある(FinStat,2008)。自治体を中心にした高齢者ケアの実態を探りたいというのが、フィンランドにきた主な動機であるが、これから少しずつ知り得た知識をまとめて、報告していく予定である。

フィンランドで3番目に大きなタンペレ市は2011年21万人(215,168)の人口を包容し、その内16.8%(36,127)が65歳以上、75歳以上では8.5%となっている。フィンランドの高齢者福祉政策の流れの一環として、ケア付きサービスハウス、グループホームの促進化が進んでいるが、タンペレ市では、それも含めた高齢者居住地域の構築という独自の構想の下に高齢化に伴う市制を育みつつある。そのモデル地域の一つに私の関わるコウクニエミ高齢者コミュニティーがあり、そこではいろいろな高齢者ケアを模索している。その一つとしてデジタルテクノロジーを利用した要介護高齢者、特に認知症高齢者を中心にした施設ケア付きサービスハウスの試みを今回は紹介したい。

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後編につづきます。

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