住まいの調査【12の住まい】10:マリーさん&小島和雄さん

【12の住まい】10:マリーさん&小島和雄さん

熱海の『Marie’ s Kitchen & Live Studio』のオーナーとして、週末カフェや音楽イベントなどを開催する、マリーさんと小島和雄さん。熱海の街と海を見下ろせる絶景のロケーションにある住まいは、完全予約制のハウスタジオやゲストルーム、カフェがある。ふたりの居心地のいい住まいでありながら、地元コミュニティの交流の場としても活用されている。

→住み開き、コミュニティ、仕事、五感リッチ、趣味、リノベーション、DIY


ものづくりが好きなふたりの、作品のような住まい

ふたりの住まいでありハウススタジオである『Marie’ s Kitchen & Live Studio』は、まず「海が見える高台」という土地探しから始まった。

マリーさんの希望は、熱海の頼朝ライン(熱海山上にある上多賀〜土橋間の道路)沿いの物件。偶然にも頼朝ライン沿いの山林が売り出されていることを知り、ふたりで土地を見にいった。

まさに山林そのものの土地だったが、木々の間から見えた海の景色にインスピレーションを得て、この土地にふたりの住まいを建てることに決めた。2012年頃のことだった。

「ふたりとも、プランを考えるプロセスが大好きで、あれこれ話し合いました。当初はミニホテルなんかどうだろう?という案もありました。でも年齢的にホテルの運営は難しい。それならば、いろいろな人とコミュニケーションがとれる場所にしたいということで、食と音楽と憩いの場をつくろう!というコンセプトがふたりの間で決まりました」(小島さん)

 

「Marie’s Kitchen & Live Studio」の建築計画案。昔から白い空間が好きだったというマリーさんの好みが、ここでも貫かれている。

 

ふたりが決めたコンセプトに基づいて設計や内装プランが出来ていき、ふたりの住まいを兼ねたハウススタジオ「Marie’s Kitchen & Live Studio」が完成した。

「Marie’s Kitchen & Live Studio」は、雑誌やCMの撮影ができるスタジオ、テラス、キッチン、ガーデン、ゲストルーム、グランドピアノやPAを完備したカフェスペース、そして地階にふたりの住まいがある。

ふたりの住まいを兼ねたハウススタジオ「Marie’s Kitchen & Live Studio」は、白い館が目印。斜面沿いに建てられたスタジオからは、熱海の街と海が一望できる。2階がゲストルーム。

 

フランスの農家で使われていたというアンティークの重い扉。この扉に合わせて玄関のサイズを設計したという。ものづくりが好きなふたりのこだわりが詰まった住まいならでは。

 

アイデアを次々と実現していく、“永遠の未完成ハウス” 

最初設けていたキッチンとリビングの仕切りの壁は、キッチンから正面のテラスの景色を楽しみたいから取り払った。

ふたりの住まいは、いまもいろいろなアイデアを実践して、より居心地よくなるように日々手が加えられている。

地階にあるふたりの住まいスペース。ダイニングキッチン、リビング、寝室、それぞれの作業をするアトリエなどが、1フロアに使いやすく収まっている。中央の鉄の暖炉は、造形作家の茗荷恭介さんの作品。中にストーブを入れて使っている。

 

「住まいって満足することはないのね。使っているうちに、アイデアがいろいろ湧いてきて改装していくことが多いです」(マリーさん)

「いまもあれこれいじっていますからね(笑)。“永遠の未完成ハウス”なのかもしれない」(小島さん)

マリーさんは生活全般のこと、小島さんはDIYなど、手を動かすこととアイデアを実行することが何よりも好きなおふたり。

「Marie’s Kitchen & Live Studio」は、プライベートスペースもスタジオやカフェも、訪れる度に何かしら手が加えられていて、常にバージョンアップしている。まるで住まいが、ふたりの作品のように進化しているのだ。

 

L字型キッチンでランチを料理するマリーさん。機能的なキッチンは、使いやすそうだ。キッチンの奥には作業台と左奥にパントリーがある。シンクの上には、山の緑が見渡せる小窓があって、目を楽しませる。キッチンで、ウィークエンドカフェのメニューの試作や仕込みをすることもある。キッチンからリビング越しにバルコニーの窓を見ると、海と山の風景が目に飛び込んでくるという絶景キッチン。

この家を建ててから、キッチンは、最初のI字型から、Ⅱ字型、そして現在のL字型へと改装を重ねてきたそうだ。若い頃はオーダーキッチンを使っていたこともあったそうだが、いまはシンプルなシステムキッチンで満足している。

 

ウィークエンドカフェのメニューやレシピを書き留めている、マリーさんの手帳。「キッチンでなにか煮込みながら、隣で手帳で作業していると心落ち着きます」(マリーさん)

 

ふたりが毎日の生活で大切にしているのは、食。

小島さんがパンを捏ねて焼く隣で、マリーさんが料理を煮込むという分担スタイルが自然にできあがっているのが素敵だ。

テラスでゆったり食事をとることも。鳥の声、風になびく木々の音、五感で熱海の山上の空気を満喫できる。

 

相模湾、熱海の街が一望できる景色。リビングからも、カフェからも、ゲストルームからも、この景色が見えるように設計した。熱海の花火大会も特等席で楽しめる。

 

アートと自然が溶け込んだ住まい

 

リビングにはアート作品、自作の小物などが飾られて、明るく居心地のよい空間。

 

リビングの窓際のテーブルがふだんのふたりのダイニングコーナー。テーブルには花や緑を欠かさない。

 

バルコニーに設けたガーデン。花やハーブはすべてガーデンから。

 

週末だけオープンするウィークエンドカフェ、花火とライブ演奏

年齢を重ねて、少しずつ手がける仕事を小さくしてきたふたり。いまは「Marie’s Kitchen & Live Studio」だけに専念している。

週末にはウィークエンドカフェをオープン。地元の人や観光客が集う憩いの場となっている。

カフェには、ピアノやPAがあることから、本格的なライブ演奏も可能だ。

熱海海上花火大会の日にはジャズピアノの巨匠 山本 剛トリオをはじめとしたミュージシャンによるライブを開催することが、定番イベントとなっている。これらもすぐさま予約完売となる人気イベントだ。

1階のウィークエンドカフェ。週末だけのオープン。いつも予約で満席になるそうだ。テラス席からは、景色が楽しめる。

 

児島さんの作品。シャンパンやスパークリングワインの栓のワイヤーが、チェアアートに変身。

 

ゲストルーム

当初のミニホテル運営は取りやめたが、ゲストルームを用意して、友人や知人が利用できるようにしている。

熱海の花火大会の日は、この部屋からも花火鑑賞ができるため、人気だ。

熱海の花火が真正面に見えるゲストルーム。主に友人や知人だけが利用する、ごくプライベートなゲストルームだ。

 

ゲストルームのカバー類やインテリアは、マリーさんのセンスでコーディネート。長年生活雑貨の店をやってきたマリーさんにはお手のもの。

 

森林を整備した新たな試み「ATAMI Green field with Kicollys & Marie」

ふたりのアイデアは、住まいだけに留まらない。

2022年には、熱海の森林保全に取り組むNPO法人「熱海キコリーズ」とともに、所有地の森林を切り拓いて、森林浴フィールド「ATAMI Green field with Kicollys & Marie」を完成させた。

2022年にクラウドファンディングでプロジェクトを立ち上げ、森林整備と森林浴フィールドを作る資金を募り、250万円の目標に対し360万円以上の支援が集まって完成に至った。整備には、「熱海キコリーズ」や地元の大工さんが集結。熱海の森林保全の好事例としても注目を浴びた。

熱海キコリーズ

スタジオの隣に、森林浴フィールド「ATAMI Green field with Kicollys & Marie」の看板。手作りの専用階段から下へ降りていく。

 

「ATAMI Green field with Kicollys & Marie」は、「Marie’s Kitchen & Live Studio」の約60メートル下となる。

 

デッキの奥には、水場とトイレ、簡単なキッチンのある小屋も整備。

支援者や関係者を集めて開いた内覧会では、「熱海キコリーズ」の間伐材プレートを皿として使っているフレンチレストランのシェフの料理を提供し、参加者らはここで森林浴と料理を楽しんだ。

 

デッキの前の森林を間伐したおかげで、市街や相模湾を見渡せる景色も生まれた。間伐により、太陽光が地面に届き、鳥や昆虫が集まる生態系の回復も期待できるそう。

 

ウッドデッキは、熱海で出た間伐材を使用。もともとここに生えている樹木を活かしたウッドデッキの設計も楽しい。

 

「お披露目のあとは、落語会やヨガなど、いろいろな使われ方をしています。これからみんなで活用方法を模索していきたいですね」(小島さん)

マリーさんと小島さんは、熱海キコリーズとの連携のほか、熱海の人々の活動も応援している。

「最近、熱海の起雲閣近くにバーを併設した、SEACLIFF(シークリフ)熱海蒸溜所というお店ができました。ドイツから輸入したオーダーメイドの蒸留器が店内にあって圧巻です。地元の産物を活用したオリジナルジンづくりを我々も応援していています」

海沿いの気候で育まれた熱海や伊豆産のボタニカルを使って、地元の海で採れる海藻を使ったクラフトジン第1号「First Batch 001」。「柑橘と海藻の香りがしてすごくおいしいですよ」(小島さん)

 

「先のことを考えても仕方がないから、体力の続く限り、このかたちで続けていくと思います。いまは規則正しい生活で、ふたりとも元気ですからね。少しずつ衰えてはくるけど、そこはマシンなんかを使って毎日足腰を鍛えてね」(マリーさん)

「ネクストステージは、地元の人を巻き込んだ森林浴フィールドの活用も含め、またいろいろな展開を考えています。なんといっても我々の仲間うちでは、“しごとは楽しく あそびは真面目に 生涯現役で ” がテーマですからね」(小島さん)

ふたりの「Marie’s Kitchen & Live Studio」は、ますます進化していきそうだ。

 


 

「Marie’s Kitchen & Live Studio」は、ふたりの住まいでありながら、人が集まる、ふたりの仕事の場。

ある意味住み開き的な、コミュニティの場ともなっている。

地元の人々や団体との連携も、皆が関心事で集まって、プロジェクトを推進するまでに至っている。

新しい住まいのかたちとして、先進的な事例といえる。

 


【プロフィール】

マリー(高谷淑子)さん&小島和雄さん

長年ライフスタイル提案を行う生活雑貨の店「Marie」を経営してきたマリーさんと、仕事仲間だった小島和雄さん。還暦から始まった第二の人生でふたりが出会い、パートナー関係に。ふたりの住まいを兼ねたハウススタジオ「Marie’s Kitchen & Live Studio」を、相模湾と熱海の街が一望できる熱海の山上に建築。完全予約制のcには、スタジオ、テラス、キッチン、ガーデン、ゲストルームがあり、グランドピアノやPAを完備し。週末だけオープンするウィークエンドカフェは、食と音楽と憩いの場として人気のスポットとなっている。

→Marie’s Kitchen & Live Studio(※現在HP改修中)

小島和雄さんの連載記事「小島さんとマリーさん」はこちら


撮影:三村健二


本事業は、公益財団法人日本財団の2024年度助成プログラムを受けて実施しました。
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