『ドライビングMissデイジー』

Black Lives Matter運動は、全世界に影響を及ぼしています。南部の奴隷制度を肯定的に扱い白人視点で美化しているように見受けられるということで、映画『風とともに去りぬ』も、大手配信動画サービスで配信一時停止となりました。今後は、問題点が明確にわかるように説明を追加したうえで配信される予定です。

映画は、作品の舞台となる年代だけでなく、当時の製作者側の差別意識をも含んでいます。古い映画を現代の視点で見直すと、公開当時には見えてこなかった問題点に気付くことが数多くあります。

『ドライビングMissデイジー』もそのひとつでした。

裕福なユダヤ系の老未亡人ミス・デイジー(ジェシカ・タンディ)と、その運転手として雇い入れられた黒人のホーク(モーガン・フリーマン)との心の交流を描いた本作は、イタリア人運転手と黒人ピアニストのロードムービー『グリーンブック』と比較されることもあるようです。

主演のジェシカ・タンディは、80歳にしてこの作品でアカデミー賞 主演女優賞を受賞しました。以前、木村眞由美さんの『私はわたし、80過ぎてもおしゃれは続く』という本を紹介しましたが、80代の女性たちの活躍は、後に続く私たちも元気が貰えます。

映画をいま見直してみると、誇り高く頑固な女主人ミス・デイジーが、貧しい家の出身で一生懸命勉強して教師という職に就いたこと、成功した息子がなにかと物質的支援をしようとするが彼女自身は分相応の生活にこだわることなど、頑固な姿勢の背後にある彼女の謙虚さや人生がよく見えてきます。

また、元教師である彼女が、自分では「差別などしていない」と言いながら、運転手ホークを差別していること。一方で彼女自身も、ユダヤ人として白人社会から差別されていることなどが浮かび上がってきます。この当時の南部の差別問題の描かれ方については、生ぬるい部分も多く見受けられますが、現代の視点で読み解いていくのもひとつの手法だなと感じました。

ところで、白を基調にしたアメリカ南部らしい家のインテリアを見るのもこの映画の楽しみのひとつ。ミス・デイジーはいつもきちんとした身なりで、部屋に花を飾り、美しく整えられた居間で新聞や本を読んでいます。

昔からこの家に仕えているメイドのアイデラと運転手のホークがいつもお喋りして寛いでいるのは、この家のキッチン。明るい外光が差し込み、小さな部屋の壁に沿って、炊事場、ガス台、作業台、食器棚がぐるりと取り囲んでいて、中央には2人がお茶を飲んだりする簡単なテーブルと椅子。実に使い勝手が良さそうです。メイドのアイデラは、小さなテレビをキッチンに置いて、食事の下拵えをしながらドラマを見ています。彼女のキッチンは、すべての必要なものに手が届くコックピットのようです。

最後には認知症という問題も出てきますが、ミス・デイジーとホークの長年にわたる心の交流を描いたこの映画は、人生の晩年に心が許せる友人がいることの大切さを教えてくれます。彼らは、何十年にもわたって、心の結びつきを熟成させてきたのですから。

これからの自分の暮らし方をじっくりと考えるのにぴったりな映画と言えます。

 

 

ドライビングMissデイジー
原題:Driving Miss Daisy
監督:ブルース・ベレスフォード
主演:ジェシカ・タンディ、モーガン・フリーマン、ダン・エイクロイド
製作年:1989年
製作:アメリカ
配給:東宝東和
販売・販売元:KADOKAWA / 角川書店
※動画配信サイトでの配信やDVDが販売されています。

©1989 – DRIVING MISS DAISY PRODUCTIONS

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