映画『男と女 人生最良の日々』

『男と女』は、1966年に発表されたクロード・ルルーシュ監督の名作恋愛映画。フランシス・レイのテーマ音楽の美しさと相まって、日本でも大ヒット。小さい頃、我が家にもサウンドトラックアルバムがありました。映画音楽だけを先に知り、映画自体を見たのは多分10代か20代。モノクロームとカラーの映像が交差するフランス映画の映像のお洒落さと、若きアヌーク・エーメの美しさに圧倒されましたが、互いに愛する人の喪失を体験した男女の恋愛の機微や奥深さは、まったく理解できていなかったな、といまさら思います。

その後ルルーシュ監督は、二人の20年後という設定でオリジナルキャストを使った『男と女 Ⅱ』(1986年)を発表し、出会いから53年が経ったところから始まるのがこの『男と女 人生最良の日々』(2019年)。そう、『男と女』という作品は、壮大な3部作構成となっているのです。

『男と女 Ⅱ』は、80年代のパリが舞台で二人とも中年となり、女性に囲まれている現役カーレーサーのジャン・ルイ、映画プロデューサーとして成功しているアンヌは二人の過去を映画化しようとします。80年代という時代的背景もあってか、なんだかギラギラした感じばかりが印象に残っています。主人公の年代、バブルを目前にして世の中が欲望に満ちていた時代背景というのもあったのでしょう。

そして53年という年月が経って、80代となった主人公二人の関係を描く『男と女 人生最良の日々』は、多くのものを得て多くのものを失ってきた、いい意味で人生を生き抜いてきた末の穏やかさと愛が満ちあふれた作品となっています。

カーレーサーだったジャン・ルイ(ジャン=ルイ・トランティニャン)は、いまはひとり介護施設に暮らす日々。認知症の進行を心配した息子が、以前の恋人アンヌ(アヌーク・エーメ)に、施設にいるジャン・ルイに会ってくれるよう頼むところから、物語は始まります。ジャン・ルイは、かつて人生で一番愛した女性アンヌとの輝かしい過去の時間の中で生きています。

他のすべてを忘れても彼女の目だけは覚えている

そう語るジャン・ルイ。しかし目の前に現在のアンヌがいるのに、彼女に気付きません。

時々現在とつながる記憶の回線、そしてまた途切れる記憶。現在も過去も同時につながった世界で生きるジャン・ルイを、包み込むように見つめるアンヌの視線は、慈愛に満ちています。

 ジャン・ルイ (君は)俺より若く見えるな

 アンヌ    化粧しているからよ

 ジャン・ルイ いや、穏やかだからだ

アンヌは終始ジャン・ルイを穏やかに見守り、ヴェルレーヌの詩を暗唱するジャン・ルイに、自分を忘れたことについても冗談で返します。

 アンヌ    私は忘れてもヴェルレーヌは忘れないのね

 ジャン・ルイ 付き合いがはるかに長いからな

ちなみに、ジャン・ルイが再婚した妻との間にできた娘を、イタリアの宝石モニカ・ベルトリッチが演じています。記憶がおぼろげな父に、「私が誰かわかる?」「私の名前を言える?」と、立て続けに質問する姿は、実の娘ならではのリアリティでした。現実でも、肉親はついついこうやって、相手の記憶を試すようなことをやりがちなもの。認知症専門医 長谷川嘉哉氏の著書『ボケ日和』にもそんな話がありました。

かつてはパリの街を猛スピードのムスタングで乗り回していたジャン・ルイですが、いまはアンヌの運転する愛車・灰色のシトロエン・2CVに乗り込み、二人は思い出の場所をめぐります。かつては加速する熱情に生きた二人が、いまは穏やかにゆっくりと語り合う。実年齢でも80代の二人の俳優を起用したことにより、この映画の世界がさらにリアルなものになります。

原題の「人生最良の日々(Les plus belles annees d’une vie)」は、ヴィクトル・ユゴーの「人生最良の年は、この先に訪れる」という言葉に由来しています。愛や嫉妬の嵐を通り抜けてきた二人にとっては、53年前よりも、いまこそが人生最良の日々と言えます。

『男と女』三部作のラストを飾る、『人生最良の日々』。滋味深い極上のスープをいただいたかのような気分になりました。おすすめです。

 

男と女 人生最良の日々(Les plus belles annees d’une vie)

監督:クロード・ルルーシュ
出演:アヌーク・エーメ、ジャン=ルイ・トランティニャン、
音楽:カロジェロ、フランシス・レイ
製作:2019年/フランス
配給:株式会社ツイン

©2019 Les Films 13 – Davis Films – France 2 Cinema

 

『男と女』(Un homme et une femme)

監督:クロードルルーシュ
音楽:フランシス・レイ
出演:アヌーク・エーメ、ジャン=ルイ・トランティニャン、ピエール・バルー
製作:1966年/フランス

©︎1966 Les Films 13

男と女Ⅱ(UN HOMME ET UNE FEMME 20 ANS DEJA)

監督:クロード・ルルーシュ
出演:アヌーク・エーメ、ジャン=ルイ・トランティニャン、
音楽:カロジェロ、フランシス・レイ
配給:ワーナー・ブラザーズ
製作:1986年/フランス

©2016 showbox and bom film productions

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