フィンランドで受けた運転適性検査のこと

〜フィンランド在住50年、プロダクトデザイナー児島宏嘉氏によるフィンランド通信〜

EUの取り決めによる運転適性検査を受ける

2019年5月14日、フィンランドで運転適性検査を受けました。

今年1月末に、ある催しで立ち話をしているときに失神・転倒し、後頭部を床に強打して耳から出血し救急搬送されそのまま入院しました。その日から3カ月間、運転を禁じられました。
これはEUの取り決めによるもので、脳に影響のある傷害があった場合、医師の指示で治療後1カ月半のうちに運転適性検査を受ける必要があるのです。
そこで問題がみつからなければ、検査後すぐに運転ができます。運転に適さないと判定された場合は、警察の交通課に連絡されて免許証失効となり、それ以降運転が禁じられます。

生涯有効の運転免許と、検査員の資格

検査員が同乗しての運転適性検査は、約1時間の実地運転でした。
疑問があるときには1時間半以上の実地運転になり、場合によっては治療にあたった医師と相談して、後日再検査する場合もあるとのことでした。

検査員は、自動車運転免許試験者の資格を有する上に、行動心理学、運転生理学、運転心理学、脳神経学などを、応用科学大学で学ぶ必要があるそうです。

退院時に渡された連絡先は、フィンランド全国をカバーする運転適性専門のプライベートの検査機関でした。
フィンランドの運転免許は、基本的には生涯有効です。しかし高齢者は、医師の定期検診を受ける必要があり、その判断によっては運転適性検査を指示されることがあります。

運転適性検査には同じタイプの車が用意される

医師からの指示書を添付して、希望日と日常運転している車名を書いて実地試験を申し込むと、ほどなく試験日時の連絡が来ました。
妻の運転で待ち合わせの場所であるスーパーの駐車場までに行くと、中年の試験員がにこやかな笑顔で待っていました。お互いに自己紹介したあと、彼女の車の運転席に乗車します。
運転する車は、いつも乗っている車とサイズが近く、計器類の配置なども似たタイプを選んでくれます。椅子やバックミラーの位置を合わせ、車に慣れるために、駐車場の中を少し走らせてもらいました。

コース計画、公共交通や通行人への配慮、高速の走り方をチェック

検査の冒頭で、「ラハティの街中ではよく走るか、よく行くのはどこか、運転して遠出はするか」などの試験員からの質問に答えます。
次に、試験員が助手席に座っての実地運転です。
「郊外にある総合病院に行ってください。コースは自分で自由に選んで」との指示を受けました。僕は、街中を通らずに、少し遠回りして行くことにしました。あとで医師への報告書を読むと「無駄なく納得できるコースを選んでいる」とありましたので、コースの計画能力もチェックしていたようです。

病院の玄関の手前で止めると、次の目的地は「町の中心部にある朝市の広場」と告げられました、ここはバスが集まってくる発着所で、人も多く、要注意の場所です。バスの発着ゆずりあいや、人への配慮などのバランスが試されていたようです。

朝市の横を抜けると、「その先を右に、そこを左に」と細かく指示されて路地に入って行きました。左右からの道が頻繁に交差し、横断歩道も多く、優先順位が複雑で、見通しの悪い古い住宅街をしばし走らされました。

住宅街を抜けると、今度は高速を使って応用科学大学に行くようにとの指示です。
新しいジャンクションの工事をしているため、迂回路やスピード制限が複雑に入れ替わる道を走りました。また、他の車につられてスピードが上がるのに気をつける必要もありました。

運転中にも試験員から話しかけられるので受け答えしていましたが、助手席でメモをとられているのは、やはり気になりました。

試験終了後のチェックポイント

50分ほど走ったところで「出発地点に戻って」と言われました。
試験が終了してようやく車を止めると、試験員がメモに目を通しながら「出発して間もなくライトが上向きになっているのに気付いた。車をサイドに寄せてブレーキを踏んだが、そのときはバックミラーをしっかり見ていなかった」と指摘しました。その少し前にミラーで後続車のいないのを見ていたので、ミラーはパッと見ただけだったのを思い出しました。

「古い住宅地では、2度ウインカーを出し忘れていました。しかし他に問題がないから、これからも運転してよいでしょう。医師への報告書のコピーを送ります」ということで、試験は無事終わりました。
緊張しっぱなしの運転で疲れましたが、もし免許証を失効されたら大変なことになるという重圧が消えて、ホッとしました。

日本の運転免許更新の問題点

今回のフィンランドでの運転適性検査と比べると、日本の高齢者の運転免許更新時に行われる高齢者講習はいい加減だと思いました。
教習所または運転免許試験場での講習だから、歩行者もいませんし、他の車と前後や並列で走ることもなく、緊急車両が走ってくることもない。ほとんどまわりの状況を判断する必要がない講習なので、運転操作技能をチェックするだけになっているのではないでしょうか。

他の人の講習時に同乗していて、ヒヤヒヤする運転をする人の多いことにもビックリしました、そして、その人たちがすんなり免許更新されているのも恐ろしいことです。

日本でも、市街地での実地試験が必要だと思います。

そして、幅広い知識を身に付けた専門家が、一人ひとりの技能や判断力をじっくり見定めて丁寧に結論を出す、フィンランドのような運転適性検査を日本にも取り入れてほしいものです。

この記事をSNSでシェアする

関連記事