女性専用シェアハウスで つかず離れずの楽しい関係
【12の住まい】06:高田明子さん
70代・ひとり暮らし
子育て中に、逗子住まいを経て、葉山へ。吉祥寺生まれの高田さんは、幼少期に葉山の別荘で過ごしたこともあり、馴染みのある街だった。子育て中に、地域の人に娘ふたりの面倒をよく見てもらったことから、恩返しに「落ち着いたら地域貢献したい」と考えていたそうだ。子どもたちが成人し、夫と離別してからひとり暮らし。葉山の歴史的建築物や景観保存のためのNPOの理事としての活動に勤しむ。葉山でのシェアハウス暮らしは、現在の住まいで3軒目。
→コミュニティ、人を招く、物の整理、思い出の品、住み替え
元クリニックをリノベーションした女性専用シェアハウス
高田さんが住むシェアハウスは、一色海岸近くの住宅街にある。元は地元のクリニックだった家をリノベーションしたものだ。
女性専用シェアハウスの居室は、オーナーの1室を含めて、全部で5室。現在、常時住んでいるのは高田さんと、もうひとりプランナーの竹下奈月さんのふたりだ。他に、週末だけ犬を連れて葉山を訪れるという二拠点居住のシェアメイトもいる。
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玄関。部屋番号で一目瞭然。住人5室分のキーボックスと靴箱。デザインも美しい。 |
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業務用のガスコンロもある広々としたキッチン。1階でワークショップなどのイベントを開催することもあり、みんなで食事を作ることも。この日は、ご近所に住むお友達と一緒にランチ作り。 |
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キッチンの私物入れも部屋番号制。このほかに、それぞれの調味料・食材ストックワゴンなどもあり、使い勝手のいいキッチンとなっている。 |
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古い和箪笥は、共有や私物の食器を収納。こだわりの家具のセンスからも、居心地のよさを感じる。 |
暮らしのルールはゆるやかに
シェアハウスというと、集団生活のルールが細かくあるのではないかと思いがちだが、ここでは厳しいルールはないそうだ。
「主にふたりが常時住んでいるので、なんとなくのルールでやっています。ごみ当番も、『今週いないからお願いね』と声がけしたり。どちらかができないことは替わりにやるという感じです。シェアメイトの竹下さんは30代。知人つながりで入居してきました。実は一緒に暮らしていながら、お互いの仕事のことは詳しく知らなかったりします(笑)。でもレシピの話をしたり、ご近所の話をしたり、おしゃべりの話題は尽きません」
葉山で行われている芸術祭を通じて知り合ったオーナーやシェアメイトとの関係は、葉山というまちへの想いが共通した仲間のようなもの。
この仕組みや関係性を意識的にデザインしようと思ってもなかなかできないことだろう。想いが共通しているからこそ、芯がぶれず、よい関係が育まれているようだ。
「みんなで一緒に住むことの楽しさとか、住み合って、暮らして、応援し合うことが、基本大事なんだなと思います」
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大勢の食事や仕事ができるリビング兼ワークスペース。ワークショップなどに利用することもある。この日は、近所に住むお友達の鈴木由美子さんを招いて、シェアメイトの竹下奈月さんと一緒にみんなでランチを作って食べて過ごした。鈴木さんは以前のシェアハウスのハウスメイトだったが、いまは近くに住むご近所さんとなった。大勢で楽しむ食器が揃っていて、集まる場があることもシェアハウスのメリットだ。 |
シェアハウスのキッチンやリビング兼ワークスペースは、いわばパブリックの場。シェアメイトの住人だけでなく、人を招いて過ごす場に活用できる点が便利だ。
「オンラインミーティングやPC作業はダイニングで行うことが多いです」
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右側のキッチンに向かったテーブルで、1〜2人で簡単に食事をすることもできる。正面はオーナーの部屋。右奥は浴室。このほかに、1階にも2階にもトイレが用意されている。 |
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浴室は、医院にあった元レントゲン室を利用。「使用中」ランプはあえて残して活用している。シェアハウスにはぴったりのランプだ。 |
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白で統一された清潔感あふれる浴室。猫足付きバスタブがおしゃれだ。 |
プライベートな部屋には、お気に入りのものばかりを飾って
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高田さんの居室(7.45㎡)。ベッド、書棚、鏡、洋服ダンスなど、最小限の家具だけ。使わないものはトランクルームに預けてある。ベルナール・カトランのリトグラフは、40代の頃に購入した作品。ベッドカバーは、以前の職場を退職したときにプレゼントとしてもらったもの。 |
「一軒家を引き払ったときに、家財道具一式を友人たちに譲るなどして、かなりの断捨離をしました。必要なものはトランクルームに預けています。四畳半ほどのプライベートスペースは、寝るだけの場ですが、自分の好きなものばかりを詰め込んでいるから居心地よく過ごせます。シェアハウスは、葉山の空き家活用という意味でも有意義なことだと思います。シェアメイトのように、二拠点居住のベースとして活用してもいいですしね。」
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絵、ワークショップで作った作品、友人の手作りの品など、思い入れのあるものを飾っている。「この部屋にあるものはみんな、小さな思い出や人の手がかけてあるものばかりです」 |
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お気に入りの白樺のチェスト。「これは知人のお兄様が作ったもの。形がきれいでしょう? 好きなものばかりを集めた、小鳥の巣のような部屋なんです」 |
小径を抜けると海岸、丘に上がれば山というロケーション
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一色海岸は、地元の人がゆっくり楽しむ場所。この日も夕陽を見に出かけてくる人が集まっていた。「海と松林越しに見る夕景が、心を豊かにしてくれて、なくてはならない存在です」 |
シェアハウスからは、徒歩7分で海岸まで出ることができる。小径の途中にも、以前は別荘として使われていた古い建築物などを見かける。散歩をしているだけでも気持ちのいい環境だ。
「週末だけ来るシェアメイトの方は、老犬を連れて、ゆっくり2時間ほどかけて散歩されていますよ。ワンちゃんにとっても楽しいでしょうね」
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少し小径を歩いていくと、突き当たりは一色海岸という贅沢なロケーション。葉山にはたくさんの小径があり、歴史的な建造物も多い。高田さんのNPOでは、葉山の穴場的な散歩道を紹介した「葉山のこみち」という本を制作。街歩きイベントなども行っている。 |
葉山暮らしは、海と山の両方が楽しめる環境だ。また高田さんたちNPOのように、歴史的建造物や葉山らしい景観を保存しようと働きかける市民活動なくしては、この環境をずっと守ることはできないだろう。
社会的な意義のある仕事というと仰々しすぎるかもしれないが、高田さんの場合、葉山という場所が根っから好きだからやっているという感じが伝わってくる。街を歩けば顔見知りに出会って挨拶するという、密なコミュニケーションがこの街にはある。
「葉山は、海の幸、山の幸が豊かな場所です。あきらちゃんという女漁師さんがいて、週に一回獲れた魚介類を会員に売ってくれるんです。だから新鮮な魚介がいただけます。葉山牛も有名ですし、葉山ステーションでは葉山の地野菜や名店の商品を集めて販売しています。なんといっても葉山は、街の幸福度(自治体)調査でNo.1ですから」
キッチン付きキャンピングカーで全国をまわる夢も
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シェアスペースの設え。貝殻ワークショップなども行うそう。 |
高田さんの暮らしは、葉山という街を拠点に、ゆるやかにしなやかに広がっている。
とはいえ、ここが高田さんの終着点ではない。
「非常にエネルギーを使う断捨離を、元気なうちにできたことは幸いでした。身軽なので、いつかはキッチンが充実したキャンピングカーで、カフェでもやりながら全国各地を巡る暮らしをやってみたいですね。やりたいことがたくさんあって、年をとってる暇なんてないです(笑)。」
住まいは、人を育む器。その人の人生の目的によってさまざまに姿を変えていくことはしごくあたりまえのことなのだろう。
身の回りを必要最低限のものだけに絞って、シェアハウスという自由で新しい住まい方は、これからますます増えてくるかもしれない。
スペースだけに限らず、家具や家電などを共有できることは、物の整理にも役立つ。
また女性専用で、多様な世代のシェアメイトが集まる住まいとなっていることも多様で興味深い。シェアハウスでは、葉山のアートイベントなども行われ、ある意味、住み開き的な場所ともいえる。
【プロフィール】高田明子さん
NPO法人葉山環境文化デザイン集団 代表。葉山の歴史的建造物の保存や活用、まちの魅力を再発見するツアーなどを企画。葉山の景観を次世代に継承する、まちづくり活動を行う。、一般社団法人La Casa Blanca Hayamaでは、国登録有形文化財「旧東伏見宮葉山別邸」継承プロジェクトで建物の保存と利活用に尽力している。出版物に「葉山のこみち」(用美社)がある。
葉山のこみち https://www.instagram.com/hayamanokomichi/
撮影:三村健二