村中李衣『お年寄りと絵本を読みあう』

大学病院の小児病棟に入院する子どもたちの精神的な支え「読書療法」として、子ども一人ひとりの枕元で絵本を読んできた、著者の村中李衣さん。闘病中の子どもたちに一方的に読み聞かせるのではなく、一対一で一緒に読む“読みあい”という場を設けることで、重い病気を抱えた子どもたちの心は、絵本の物語世界の中にいきいきと入り込んでいきました。

そんな村中さんが、高齢者にも絵本を読み始めたのは、祖母の人工透析の付き添いで病院の送り迎えをするようになったのがきっかけ。透析を終えた高齢の患者さんたちが、ぼうっとテレビを見ながらお迎えを待っている様子を見て、病院や施設で生活をしている高齢者にも絵本の“読みあい”をすることで、いきいきとした時間ができるのではないかと考えたからでした。

しかし、子どもと高齢者とでは、絵本の物語世界への対し方が違っていました。

親ガニの敵討ちを果たそうとする子ガニを描いた絵本『かにむかし』(岩波書店)を読んだとき、子どもの反応とは明らかに異なる点に、村中さんは気付きました。

しかし、あだ討ちとか正義というようなものには、じいちゃんばあちゃんたちは、ほとんど関心を示さなかった。そして、そんなものよりも、柿の葉ひとつ、カニ一匹、サル一匹の在りようが、そのまま心に届くようだった。(p.14)

子どもたちが物語の世界に入り込んで好奇心を持って読み進んでいくのと比べて、高齢者の方々の心が向かうのは、物語の中の小さなディティール。そこから喚起された自分の思い出や感じ方のひとつひとつが開きだし、ゆっくりとした豊かな時間を生み出します。

しかし認知症の方の場合には、“読みあい”の時間には涙した物語の世界のことも読んだことすら、読み終わった数分後には忘れていることもあります。でも「その瞬間だけでも、ものがたりによって自分の内側に眠っていたものが蘇り、そこで生まれたエネルギーに支えられれていく時間も、人間の一生のなかはあるのではないか」(p.20)と、村中さんは言います。

高齢者への一対一の“読みあい”の反応は、その人によって異なってきます。本書は、“読みあい”体験記ですが、村中さんはあくまでお一人ひとりのお年寄りに寄り添った視点から、その体験を綴ります。本書では一般的な「高齢者」という呼び方ではなく「じいちゃんばあちゃん」と呼ぶことからも、その気持ちが伝わってきます。

また、ご自分の祖母との思い出について書かれた「ばあちゃんから教わったこと」「菓子屋のミッチョさん」も心がきゅっと掴まれるお話でした。

自分がお年寄りになったら、どんな絵本に反応するんだろうか。
そのときに、“読みあい”をしてくれる人と巡り会えたらいいな。
そんなことも考えた本でした。

お年寄りへの“読みあい”を考えている方がいらしたら、ぜひ手に取ってみてください。

『お年寄りと絵本を読みあう』

著者:村中李衣

価格:1,500円+税

ISBN:4892401625

出版社:ぶどう社

http://www.budousha.co.jp/booklist/book/otosiryoriehon.htm

 

 

 

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