一年一度の命の洗濯

50代半ばのある日、ふと思った。家庭と仕事とモロモロの雑事におわれっぱなし。このまま人生を終わると悔いが残るのではないかと。

ちょうどその頃イタリアに行く機会があり、フィンランド経由で2週間ほど旅をした。日本から遠く離れすっかり解放された日々を過ごすうちに、自分の姿を客観的にみることができ、これからのライフスタイルを考えはじめていた。「コレだ!」とひらめいた。

1965年、コペンハーゲンで初めてホームステイした家のママが言っていた言葉、「完全にリラックスするには距離が必要よ」。そしてもうひとつ頭に浮かんだ誰かさんの言葉、「モノをつくる人間にとって旅は義務である」。そうだ、この2つの言葉をトランクにつめて1年1度は海外に行き、人生をリセットする時間をもとう。それからは毎年夏休みはきまってヨーロッパのどこかで2〜3週間のオフタイムを過ごすという習慣をもう20年近く続けている。

旅程は必ずヘルシンキの同じホテルから始まる。ヘルシンキ空港から乗り合いタクシーで30分位のところにあるそのホテルは海に面しており、都会とは思えないすばらしい景色がひろがっている。‘トラム’に20分ほど乗れば中心街にも簡単にでられる。

旅の初日の失敗談。街で食事をすませてトラムに乗りホテルへの帰路についた。ふと気がついて時計を見るとやけに時間がたっている。横に座っている夫が「寝過ごしてまた戻っているんじゃない?」「えー?そんなことないでしょ」と思ってしばらく外を見ていると、右側に見えていなければならないオペラハウスが左側に見える!終点まで行って折り返したのだ。終点で「もしもし、お客さん!」なんて起こしてくれるわけはない。あわてて降りて反対側のプラットホームへ行ったとたん、けたたましい花火の音。夜の11時というのに明るい空に花火はありえないと思っていたら、なんとオペラハウスの後ろ側にかなりしょぼくれた花火が何発もあがっている。おもわず笑ってしまった。

フィンランドに住む友人に話したら「花火?花火は冬でしょ」そうだよなあ、こんな明るい空に花火をあげても全く感激はない。不思議な体験をした。

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