トークイベントレポート「食は知性。~料理の窓は小さな小窓、それが森羅万象、宇宙に繋がっている~」

5月23日(金)に、Impact Hub kyoto で開催されたトークイベント「食は知性。~料理の窓は小さな小窓、それが森羅万象、宇宙に繋がっている~」に伺いました。

料理研究家・辰巳芳子氏の100歳記念として、辰巳氏を追ったドキュメンター映画『天のしずく 辰巳芳子“いのちのスープ”』(2012年製作)が、UP LINK 京都 @uplink_kyoto で、5月30日(金)~6月5日(木)1週間限定上映されます。その開催前のトークイベントでした。

トークイベントには、河邑厚徳氏(監督)、矢内真由美氏(プロデューサー)、佐藤洋一郎氏(初代和食文化学会長)、濱崎加奈子氏(日本の伝統文化プロデューサー)、モデレーター塩瀬隆之氏(京都大学総合博物館准教授)が登壇。「食は知性。」というテーマについて語りあう楽しい会でした。

トークで印象的なキーワードがあったので、一部をご紹介します。

 

●「食は知性。」

・食は、人の命を守るもの。何を食べるかは、人の知性による。

・では、知性とは何か?

・知性という言葉への疑問は、「知性は、食。」とひっくり返してみたらどうだろう。

・知性は生き方そのもの。生きる知恵。

・動物は、新鮮なものを食す。料理をするのは人だけ。
人は、食の素材を組み合わせて、調理・保存・運搬といった複雑な工程を行って、経験値を高めてきた。料理が人の知性を鍛えてきた。

・人類は、二本足で立ち上がった時から、両手が自由になった。動物としてのヒトから人へ変わった瞬間である。食の根源は「手」。「手」で料理をつくるようになった。

 —料理を作る事は、自然を掌中で扱うことなのです。それは人間にのみ許された厳粛な行為だと思います。(辰巳芳子の言葉より)—

 —「いのち」の目指すところは「ヒト」が「人になること」「なろうとすること」(食に就いて 辰巳芳子 より)—

 

●「食べごこち」

・玄米スープは、胃に落ちていく前に、すーっと消えて、満たされていく食べごこち。

・食べもの、飲みものの範疇を超えている玄米スープ。

 —食べごこちを作っていくということは、最も基本的な自由の行使。(辰巳芳子の言葉より)—

 

●「丁寧に素材が喜ぶように」

・無私になって台所に立つ。

・素材の声を聞く。自ずと素材の切り方が変わってくる。

・「ものから教えを請う人になりなさい」と辰巳氏から言われた。

・庭師は、石の声を聞く。華道は、ここを切ってくれと花の声を聞く。

・映画「男はつらいよ 寅次郎あじさいの恋」では、13代目片岡仁左衛門扮する陶芸家が、「土から器が出してくれというんや」と言っていた。
仏師が「木から仏さんを出してあげるんや」という言葉と共通している。

・素直に素材と向き合うということが、無私である。

 

●映画化への想い

プロデューサー矢内真由美氏は、なぜ映画化にしたのかという問いに、
「映画は時間を超えるメディア。たくさんの人と映画館という空間を共有して、同じ映像を見る、テレビとはまったく異なるメディア。見えているものの向こうのことを伝えたい、残したい、共有したいという想いから、映画という手段を選んだ」と答えていました。

また、監督の河邑厚徳氏は、元NHKエグゼクティブプロデューサーで、「アインシュタイン・ロマン」「エンデの遺言」「チベット死者の書 ―仏典に秘められた死と転生」などの数々のドキュメンタリーを手がけてきた方です。トークイベントでは、辰巳氏からの問いかけを、自分の中で咀嚼して映像に表現されている様子がうかがえました。

 

●100歳のお誕生日を迎えた辰巳芳子氏

河邑厚徳監督が「公開から13年経った今こそ“いのちのスープ”は、大きな力になるはず」と言うように、何を食べて生きていくのかは、100年人生の時代を迎えた私たちにとっても大きな問題です。

2024年12月に100歳の誕生日を元気に迎えられたという辰巳氏。

その生き方や食こそが、100年人生を体現しているように思えます。

 

●玄米を梅干しと昆布とともに煮出した「玄米スープ」

当日の会場では、プロデューサー矢内真由美氏が、辰巳氏直伝の「玄米スープ」を参加者にふるまってくださいました。

滋味溢れる味わいは、まるでコンソメスープ!

トークイベント終了後には、スープを濾した後の玄米と梅干しの試食もあり、オススメのオリーブオイルと塩で味付けしていただきました。これは、ワインのつまみにもなりそう(おじやとしても美味しいに違いない!)。使った昆布はあとで佃煮になさるそうで、食材をあますことなく全部いただく精神が徹底されていて、まさに映画の実演だと感じました。

矢内真由美氏は、『天のしずく 辰巳芳子いのちのスープ』のプロデューサーであり、65周年を迎え“テレビ料理番組の最長放送”としてギネス世界記録に認定された「きょうの料理」を30年間担当してきた方です。

この日いただいた「玄米スープ」のレシピは以下の「きょうの料理」サイトで紹介されています。玄米を煎るのが大変という方は、煎り玄米も販売されているので、それを使うと簡単かもしれません。

→ みんなのきょうの料理 レシピ 玄米スープ(辰巳芳子)

 

●映画『天のしずく 辰巳芳子“いのちのスープ”』

映画『天のしずく 辰巳芳子“いのちのスープ”』は、UP LINK 京都 @uplink_kyoto で、今週の5月30日(金)から1週間限定上映です。

2012年に製作されたこの映画は、DVD/Blue-Rayでも販売されていますが、今も全国各地で、映画館での上映や自主上映イベントが繰り返し開催されています。

時を経ても変わらぬ辰巳芳子氏の想いを、ぜひ映画でご覧ください。

→  天のしずく YouTube公式チャンネル ※公式チャンネルには、オフカット集動画などもアップされています。

→   辰巳芳子 ウェブサイト

→   辰巳芳子 スープ教室

 

辰巳芳子
1924年12月1日、東京生れ。料理研究家、随筆家。聖心女子学院卒業。料理研究家の草分けだった母、浜子のもとで家庭料理を身につける。また、宮内省大膳寮で修業を積んだ加藤正之氏にフランス料理の指導を受け、イタリア、スペインなどで西洋料理の研鑽も積む。父親の介護の経験からスープの大切さに気づき、鎌倉の自宅などで「スープの会」を主宰。病院へスープをと、医療者のためのスープ教室にも尽力した。著書は『あなたのために―いのちを支えるスープ』『続あなたのために お粥は日本のポタージュです』『庭の時間』『仕込みもの』(すべて文化出版局)など多数。

 

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